トワイライトの怠惰な図書室

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 ファイアーエムブレム聖魔の光石 カイル×ルーテSS第18弾。最強剣士と最強魔導師の出会い。
魔に蹂躙された街

 深夜11時。ふいに目を覚ましたルーテは、先ほどまで抱きしめていたカイルの感触がないことに気づき辺りを見回したが、カイルの姿がなかった。
「こんな夜更けにどこへ…」
 何となく気になったルーテは、部屋を出て甲板へと上がっていった。

「ふぅ…このままでは夜眠れず、昼寝てしまう生活になってしまう。明日の午後にはまた戦いが始まるというのに」
 甲板で一人、手すりに腕を預けて海を眺めていたカイルは、現在の状況にため息をこぼしていた。今は幾分昼に寝ていたので良いが、今後もルーテと同室になってしまったのでは体が持たない気がする。
「また眠れないのですか?」
 船底の入り口から聞き慣れた声が響いた。振り向けば、ランプとトレイをもったルーテがいた。トレイの上にはワインのボトルにグラス、それに酒の肴と思われる料理が乗っていた。
「ルーテ」
「明日の午後にはタイゼル港での戦いになります。今回は私たちも前線に出るのですから、疲れを取っておかないと」
「心配をかけてしまったようだな」
 隣に並ぶルーテの頭を軽く撫でる。かわいい妹を褒める兄にも見え無くない。
「少し飲んだ方が眠れるかと思い、お持ちしました」
 そういって、二つのグラスにワインを注ぎ、涼しい音が甲板に響く。
「うむ、旨い」
「こういった場所で飲むワインもまた、趣があって良いですね」
 そういって、少しづつワインを楽しみながら談話に花を咲かせていく。カイルがルネスで普段どういった生活をしていたのかとか、ルーテの魔術研究等たわいもない話しで時間が過ぎていった。
「しかし、村からこんなに離れた事など無い私にとって、今回は非常に充実した日常であることは確かです。不謹慎かも知れませんけど」
 ルーテの言葉にカイルは苦笑を浮かべる。
「確かにそうかも知れないな。私だってルネス以外の場所でこんなに長く生活しているなど、有り得なかったからな」
 そんな話しをしていると、ふいに背後に気配が現れた。
「おや、ルーテにカイル」
 そこにいたのはグラドの竜騎士、クーガーであった。彼も眠れなかったのか、片手にワインとグラスを持っていた。
「クーガー。君も眠れないのか」
「ん、ああ…いよいよグラド本土なんだと思うと、色々思い出してな」
「良かったら一緒にどうですか?」
 そういってルーテがつまみを差し出す。クーガーは一つ手を挙げて答える。
「悪いな、二人だけの所を邪魔して」
「いや構わない。私も寝付けなくてな」
「そうか… と、せっかくだからもう一品ぐらいつまみを探してくるか。待っててくれ」
 そういって、船底への入り口に消えていった。そして数分後、再び現れたときには、なぜか横にターナ王女の姿があった。
「ターナ様?」
「…悪い、見つかった」
 いたずらを見つけられた子供のような顔でそういうクーガーの横で、ターナ王女が不満の声を上げる。
「ずるいわ、三人だけで飲んでるなんて! 私も誘ってよね!」
「ターナ王女も眠れなかったのですか?」
 ルーテがそう訪ねると、ターナ王女はクーガーと共に腰を下ろして答えた。
「そうよ。何だか目が冴えちゃって、夜空を眺めていたら、廊下から足音が聞こえて来たから何だろうと思って覗いたら、クーガーが料理を持って甲板に上がっていくから」
「まあいいじゃないか、ルーテ。こうして四人で飲むのも何かの縁だろう」
「四人で済めばいいんですけどね…」
 グラスを口に当てながら、視線を船底の入り口に向ける。三人もその視線をたどって入り口を見ると、どうやら似たような考えをしていた数人がいた。
「ネイミーとコーマ。それにデュッセル将軍」
「あはは、みんな同じ事考えていたのね」
 ターナ王女が面白そうに笑う。ネイミーたちもこちらに気づき、手を振りながら近づいてきた。
「珍しいですね、デュッセル将軍がこの二人と一緒とは」
「うむ。些か喉が渇いたので厨房に水を飲みに行ったら、この二人が居てな。何でも眠れないから甲板で酒を飲むと言うことだったので、儂も便乗したというわけだ」
 いつもの硬い表情から一転、年相応の笑みを浮かべる。
「俺たちも一緒にいいかい?カイルの兄貴」
「ああ、構わない」
 そういって三人も腰を下ろす。ネイミーとコーマ、デュッセル将軍それぞれの手に料理とワインボトルがあった。
「ネイミーが作ったのですか?」
「久しぶりに料理するんで張り切っちゃって」
 えへへと笑うネイミーに全員が微笑んだ。どれも豪華というわけではないが、美味しそうな香りが立ちこめていた。
「では、改めて乾杯と行きましょうか」
 そういって七人のグラスが涼しい音を響かせる。
「うむ、これはグラドには無い味だ。旨い」
 デュッセル将軍がネイミーの料理に感嘆の声を上げる。他のメンバーもそれぞれネイミーの手料理に舌鼓を打っていた。
「おいしー ネイミー料理上手なのね」
「ありがとうございます。これ、ラク村の伝統料理なんです」
「ねえねえ、今度私にも料理を教えて」
「ええ!」
 ターナの発言に、目を丸くするネイミー。
「駄目?」
「いえ、そうではなくて… 王女とも有ろう方が料理だなんて」
「あら、私だって女の子よ。料理ぐらい出来なくちゃ」
「そ、そうですか… 解りました。今度時間が作れましたら、一緒にやりましょう」
「宜しくね、ネイミー」
 仲良く握手を交わす二人。そんな二人のやり取りを見ながら、ルーテが不意に思い出したように声を上げる。
「そういえば、こうしてクーガーやデュッセル将軍と一緒に飲むのは二度目ですね」
「ああ、そうだな」
「え!以前もこうして飲んでたの!狡いわ!」
 ターナがクーガーの服を引っ張りながら声を上げる。普段も幼い感じがするが、お酒が入るとそれが如実に出てくるようだ。
「姫。以前飲んだのは、ベスロン港での戦いの後、お互い蟠りがあってはまずいだろうと思って、デュッセル将軍と二人でカイル達の所へ行ったんだよ。その時にな」
「そうなの?」
 ターナ王女が目を丸くしている。そんな表情にクーガーは笑みを浮かべ、ターナ王女の頭をポンポンと叩く。
「今度からはちゃんと飲むとき声をかけるから。機嫌を直してくれ、姫」
「うん! 約束よ、クーガー!」
 そういって傍目も気にせず抱きつく。周りからおおっと声が上がる。
「おいおい、姫。飲み過ぎてるんじゃないのか」
「そんな、こと…ない…わ…」
 すうすう そういった側から、寝息が上がりだした。クーガーはやれやれと首を振ると、ターナをお姫様だっこした。
「ちょっと姫を部屋に連れて行く」
「ああ」
 そういって、船底への入り口に消えていった。
「ふほほ、若いというのは良いの」
 デュッセル将軍の声に、全員が笑い出した。
「ターナ様はクーガーさんの事がお好きなようですから、このまま旨くいくと良いですね」
「フレリアの王女とグラドの竜騎士か…なかなか困難な道だな」
「ま、それは当人同士が考えること。儂らはただ、見守るのみという事だ」
「そうですね」
「そなたらも、こういう時だからこそ愛する者が居るならば、決して手放してはならん。失ってからでは遅いのだから」
 年月を重ねたデュッセル将軍だからこそ重みを感じるその言葉に、若い4人はその意味を噛みしめていた。
「さて、料理も無くなったことだし、そろそろお開きにするか」
 そういって、カイルとコーマは空き瓶を集め始めた。ネイミーやルーテもそれに習って食器を集め始める。途中戻ってきたクーガーも片付けを始める。
「タイゼル港での戦い… 無事に終わったら、またこうして皆で飲みたいな」
「ええ。その為にも負けられません」
 充実した一時の後、部屋に戻ったカイルは、ようやく緊張から解放されたのか、ルーテと一緒に夢の世界へ落ちていった。

 翌朝、見事な晴天の下、順調にタイゼル港へ向かっていた。このまま行けば、間違いなく午後にはタイゼル港へ入港となる。
「うーん、良い天気♪」
 気持ちよい目覚めをしたターナ王女は、甲板で潮風を浴びていた。付きそうヴァネッサも同じく体を伸ばす。
「そうですね」
「おはようございます」
 後ろからルーテの声が響く。振り向くと、いつもは一緒にいるカイルの姿がない。
「おはようルーテ。あら、カイルさんは?」
「カイルはまだ休んでいます。もう少ししたら起こそうと思っていますが」
「あのカイル殿が朝寝坊とは、珍しいですね」
「少し飲み過ぎたのかも知れませんね」
「飲み過ぎた? いつ飲んでたの」
 不思議そうにいうヴァネッサに、ルーテではなくターナ王女が答える。
「昨晩よ。クーガーやネイミー達七人でここで飲んでたのよ」
「まあ、ターナ様。お酒など召し上がってはいけません!」
「いいじゃない、たまには」
「良くありません!」
「もう…」
 その後三人で朝食を取り、最後の準備を済ませて入港を待つことになった。

「いよいよだな、ルーテ」
「はい。どうやらアーチ船による攻撃はなかったようです。後は入港前に港から攻撃さえなければ、作戦通りに行動するのみです」
 ジャーン!ジャーン! 甲板から銅鑼の音が響き渡る。同時に全員が臨戦態勢で甲板に上がる。周りを見渡すが、特に敵兵の姿は見えない。同時に住民の姿も見えないが。
「すぐにでも攻撃を仕掛けてくるかと思ったのですが、意外に落ち着いていますね」
「うむ。しかし、待ち伏せの可能性がある。慎重に行動しなくてはな」
「デュッセル将軍。予定通りこちらの守備はお任せします」
「承知した。そちらも宜しく頼む」
 左翼に向かって降りていったカイルとルーテは、既に隊列を済ませていたフォルデの部隊に合流する。
「フォルデ、今回は宜しく頼む」
「お前、前線は今回初めてなんだろう。足引っ張るなよな」
 笑いながら軽口を叩く辺り、フォルデの性格が良く表れている。そんなフォルデにふっと口元を歪めると、カイルも負けじと言い放つ。
「お前こそ、気を許して死ぬんじゃないぞ」
「あったりまえだろ。前に公園で話した事は事実だって証明しないとな」
「フォルデ将軍! 前方に敵兵が現れました!」
 先頭の兵士から声が上がる。同時にフォルデとカイルの馬が走る。
「じゃあ、ちゃちゃっと片付けるか!」
「いくぞ、ルーテ!」
「はい」
 左翼の戦端が切って落とされたと同時に、右翼側の戦端も切れた。右翼側はより主力が集められていたらしく、かなりの兵士が襲いかかってきた。
「くそ、こっちは道幅が広い分、戦いやすいと思ったが、敵も同じ考えだったな」
「エフラム様、余り突出すぎませぬ様。少しづつ押していくほか無いかと」
 ゼトはそう言いながら、銀の槍で敵兵を馬からたたき落とし、他の部下達がとどめを刺していく。そんな状況の中、前の方で戦っている兵士から悲鳴が上がる。
「うわぁぁあ!」
「ま、魔物だ! 魔物が出たぞー!」
「なに! 魔物だと!」
 どうやらグラド兵達もその事は知らされていなかったらしく、魔物の出現に浮き足立っていた。魔物もどうやらグラド兵とこちらの兵の区別が付かないらしく、手当たり次第に襲いかかっていた。
「まずい! このままでは乱戦状態になる!」
「まずはグラド兵を優先して撃退し、その合間に魔物を討伐するぞ!」
 エフラム王子のかけ声に、我に返った兵士達が指示に従い攻撃していく。グラド兵は既に指揮系統が破壊され、魔物とルネス兵両方からの攻撃で全滅寸前まで追いやられていた。
「グラド兵はどうにかなったが、魔物の方がやっかいだな」
「左翼の方の状況が解らない今、デュッセル将軍の指揮を頼るしかない様です」
 既に右翼の兵士も当初の二割は兵士を失っている。魔物の方に至っては全体の一割ぐらいしか減っていない。
「仕方ない。みんな、左翼の援軍が来るまで持ちこたえるぞ!」
「おおーっ!!」

「おいおいおい… 魔物が出てきたぞ、カイル」
 左翼の兵士を粗方片付けた後、前方から上がった咆吼に目をやると、ゾンビやモーザドゥークといった魔物の群れが現れた。魔物もこちらを確認すると、一目散に突撃してきた。
「仕方ない…いくか」
 フォルデが馬を走らせようとしたとき、一歩前にルーテが歩み出る。
「いえ、ここは私が。カイル、援護を頼みます」
「了解」
「お、おい カイル! ルーテ嬢!」
 そういって、赤い魔導書を取り出し詠唱を開始する。カイルもルーテの前に立ち、襲い来る魔物を寄せ付けぬよう援護する。
「灼熱の業火よ、爆炎となりて敵を焼き尽くせ… カイル!」
 ルーテの声に併せて横に避けると同時に、ルーテの魔法が完成する。
「爆炎よ!」
 最後の言葉と同時に放たれた灼熱の火炎球は、敵の真ん中で炸裂し、炎の渦となって敵を飲み込んだ。炎が静まった後、おそってきた敵の七割以上が今の攻撃で消滅した。同時に今の炎を本能でおそれた魔物は、我先にと逃げ出した。
「す、すげぇ…」
「逃がしては駄目です!」
「突撃ーっ!」
 カイルの声に、フォルデも我に返り、両部隊で逃げ出した魔物を全滅させた。
「ふう、どうにか終わったな」
「はい」
「しっかし、息がぴったりだよなぁ二人は」
 フォルデは先ほどの状況を改めて思い出していた。
「ああ。我々はパートナーだからな」
「はい。カイルがいなければ、あれほど長い詠唱を必要とする魔法を使うのは出来ないでしょう」
(なるほど… 最強のペアだろうな、この二人は)
 くくっと笑いながらそんな感想を抱いた。そんな時、本陣からの指示を持った伝令兵が現れた。
「フォルデ将軍、カイル将軍!」
「どうした!」
「は! デュッセル将軍からの指示で、至急左翼討伐が終わっていたのなら、右翼の応援を願いたいとの事です!」
「応援が必要なほど、あっちは大変なのか」
「解った!至急救援に向かう!」
「はっ!」
 伝令兵は再び本陣へ引き返していった。
「フォルデ、ここは任せた。ルーテ、いくぞ」
「はい」
 それだけ言い残すと、ルーテを馬に乗せ、カイルの部隊は右翼の応援に向かっていった。
「我々は状況を見ながら進軍し、玄関口の制圧に向かう。ギリアム殿、殿を頼みます」
「承知した!」
 フォルデの部隊はそのまま、玄関口の制圧に向かった。

「くっ… 一向に減っている気がしないな」
 至る所に擦り傷や切り傷を付けながらも、必至に槍を振るうエフラム王子。その横ではゼトもまた槍を振るっていた。
「後退し、体勢を立て直しましょう」
「いや。今ここで後退したら、奴らは間違いなく一斉に襲いかかってくる。そうなったら後退する前に全滅だ」
「しかし、このままでは…」
「エフラム!」
 聞き覚えのある声に目を向けると、馬を走らせこちらに向かってくるラーチェルの姿があった。
「ラーチェル! 何をして居るんだ!」
「まあ、せっかく助けに来たというのに酷いですわ!」
 馬から下り、急ぎリライブの杖を振るう。
「とにかくここは危険だ。急いで後方まで戻れ!」
「がははは!エフラム殿、ここは儂にお任せあれ!」
 そういうや否や、ドズルが魔物の中に突撃し、次々と打ち倒していく。
「我がロストンは魔王の森が隣接する国。魔物退治はどの国よりも優れていますわ。特にドズラは我が国最強の戦士。たとえ数百の魔物が襲ってこようが、敵ではありませんわ」
「確かに凄まじい強さだ…」
 ドズラの強さに感心しているとき、後方からエフラムを呼ぶ声が聞こえた。
「エフラム様ーっ!」
「カイル! 来てくれたか!」
「ルーテ、いけるか!」
「いつでもいけます!」
 既にルーテの右手には、灼熱の火炎球が生まれていた。その炎から瞬時に何の魔法を使おうとしているのか判断したラーチェルは、急ぎエフラムに声をかける。
「エフラム! ルーテは爆炎の魔法で一気に片付けるつもりですわ!兵を引かせなさい!」
「解った! 全軍退却ーっ!」
「ドズラ、下がりなさい!」
 エフラムとラーチェルの声に合わせ後退した兵を確認した後、ルーテの魔法が再び放たれた。
「爆炎よ!」
 再び放たれた爆炎魔法は、敵の中心で炸裂し炎の渦が敵を飲み込んでいく。そして炎が収まったと同時にカイルの部隊が突撃し、残った魔物も討伐した。
「エフラム様! ゼト将軍!」
「カイル。済まない、助かった…」
「いえ、ご無事で何よりです!」
「後は玄関口だけだな… いくぞ」
 ラーチェルのリライブが終わったことを確認し、立ちあがろうとするが、カイルによって制止される。
「いえ。エフラム様はここで残存兵の取りまとめを。玄関口には先行してフォルデの部隊が向かっていると思いますので、我々が加勢に向かいます」
「そうだな… 済まない」
 そんなやり取りの中、ナターシャを先頭に衛生部隊が駆けつけてきた。
「何を仰せですか。どうかご自愛下さい」
「後は頼んだぞ、カイル、ルーテ」
「は! ゼト将軍、エフラム様をお願いします」
「解った」
 そう言い残し、カイルの部隊は玄関口へと向かっていった。

「もう、貴方は指揮官なのですから、もう少し自分の立場を考えてくださいまし!」
 先ほどから他の兵士の治療を続けながらも文句を言ってくるラーチェルに、肩をすくめていた。
「解った解った」
「解ったなら、もっと気をつけて欲しいですわ!」
「やれやれ」
 口やかましい妹がもう一人増えたみたいだと、エフラムは内心どこか喜んでいた。

「ゼト様!」
「ナターシャ殿… 申し訳ありません、治療をお願いできますか」
「良かった、ご無事で」
「また心配をかけてしまいましたね」
「いえ、ご無事なら良いのです…」
 そういって杖を振るいながら顔を伏せるナターシャに、ゼトは胸を締め付けられた。
「…ナターシャ、ありがとう」
「…私も、カイル様とルーテ殿の様に、ゼト様と共に居られればよいのですけど」
「ナターシャ…」
「も、申し訳ありません! 生意気なことを申し上げてしまって…」
 慌てて顔を上げるが、ゼトの表情は怒っていると言うよりは、どこか困った顔をしていた。
「その気持ちはうれしく思う。だが、私としては貴女を前線には出したくないのです」
「ゼト様…」
 その言葉の後、ゼトは微笑みながら付け足した。
「これは、私のわがままだと思いますがね」
「まあ、ゼト様ったら… ふふふ」

「おい、ちびっ子。本当に敵の中に仲間がいるのか?」
 フォルデは後ろに乗っている子供に声をかける。
「む。僕にはユアンっていう名前があるよ」
「悪い悪い。で、ユアン。その仲間って言うのはどんな奴なんだ?」
「えっとね、緋閃のマリカっていう女剣士なんだ」
 その名前に、フォルデは驚いたように目を開く。
「マリカ… あの常勝無敗の傭兵団、ジスト傭兵団に所属する凄腕の剣士の事か?」
「なんだ、お兄ちゃん知ってるんだ」
「ジャハナ傭兵団の中でも、飛び抜けて有名だからな。知らない奴はいないんじゃないかな?」
「本当なら別の場所に隊長がいるから、そっちにいかないといけなかったんだけど、ギルドで間違えちゃって、今はグラド側にいるらしいんだ」
「なら、なおさら仲間にしないとな」
「うん!」
「おーい、フォルデ」
 遠くの方から自分を呼ぶ声がしたので振り返ると、カイルの部隊がこちらに向かっていた。
「お、カイル。エフラム様は無事だったか?」
「ああ。間一髪で間に合った」
「さっき二回目の爆発音が響いたから、魔物の方も全滅できたんだろう」
「はい。後は玄関口付近の敵のみです… ところで、この子は?」
 フォルデの後ろにいたユアンを見ると、ルーテは興味深そうに声をかけた。
「僕、ユアン。いまグラド兵の中に仲間がいるから、戦わないように言いに来たんだ」
「そうなんですか、フォルデ」
「ああ。何でもあのマリカがいるらしい。下手に挑んでも返り討ちになる」
 その名前に、カイルも頷く。
「あのマリカか… 確かに敵にはしたくない相手だな。味方に出来るなら、何とか引き込まないと」
「では、玄関口の敵を倒しつつ、カイルとフォルデでマリカを引きつけ、引きつけた所でユアンに話しをさせましょう」
 その言葉に二人は頷いた。
「では、行きましょう」
 玄関口には既に魔物しか居なかった。魔物以外のグラド兵は既に魔物の餌食になっていた中、マリカだけは無事なようだった。恐らくマリカの放つ強烈な殺気に魔物も近づけないのだろう。
「あの薄桃色の髪と黒い服を着ているのがマリカだよ」
「よし、じゃあ行くかカイル」
「うむ。ルーテはここで援護してくれ」
「僕も戦うよ!」
 そういって、ユアンは懐から赤い魔導書を取り出した。
「あなたも魔導師なのですか?」
「まだまだだってお師匠様には言われてるけどね」
「よし、頼むぞ二人とも。はあっ!」
 そういってカイルとフォルデはマリカに向かっていった。その間に部隊の兵士達が周辺の敵を打ち倒していく。
「雷よ」
「炎よ!」
 ルーテの雷とユアンの炎が敵の合間を縫って繰り出され、敵を打ち倒していく。
「なかなか優秀ですね、ユアン」
「お姉ちゃんこそ凄いね!」
 そうこう言っている間に、フォルデとカイルが徐々にこちらに向かってきた。マリカの剣をギリギリで交わしているが、少しでも油断していたら、間違いなく急所を突かれているだろう。
「マリカ!」
「…ユアン?」
 自分を呼ぶ声に動きを止めると、思わず名前を呼んだ。フォルデとカイルもふうっと息を吐いた。
「どうしてここにいるの?」
「ギルドが間違った指示をしたから、隊長の命令でマリカを引き留めに来たんだよ。このお兄ちゃん達は敵じゃないから安心して」
「解った」
 そういうと、剣を鞘に収めた。それをみて、四人もマリカに近づく。
「隊長は?」
「今、別の場所で戦っている。合流するまで、この人達と一緒に行こうよ」
「いいの?」
 そういって、マリカはカイル達に振り返る。カイルはその言葉に右手を差し出す。
「君ほどの剣士が味方になってくれるなら心強い。歓迎するよ」
「解った。一緒に行く」
 カイルと握手を交わした後、カイルの副長が駆けつけてきた。
「カイル隊長!」
「どうした!」
「は。申し訳ありませんが、お力添えを。魔物の指揮官らしき一つ目の巨人に手を焼いております」
「解った。いくぞ!」
 駆けつけたときには、その魔物の周りにはいくつものクレーターが出来ていた。その凄まじい怪力の前に、部下達は攻めあぐねているようだった。
「うおっ、なんちゅう怪力だ。ありゃ、真正面から食らったら、あっという間にミンチになっちまうぜ」
 フォルデのその言葉に、マリカは一歩前に出る。
「あれを切る」
「お、おいマリカ。流石に一人では」
 言い終わる前に、既にマリカは敵の懐に居た。そのあまりの俊足に、誰もが目を見張った。
「い、いつの間に…」
 サイクロプスは力こそ凄まじいが、その巨体故に速度は皆無に近かった。対するマリカの速度は、まるで残像でも残しそうなほど凄まじかった。
「ユアン。炎の魔導書を貸してください」
 その言葉に魔導書を渡すと、ルーテは短く詠唱し、マリカの動きを見極めた後、魔法を放った。
「炎よ」
 放たれた火球はねらい澄ませたように、サイクロプスの目に命中し、サイクロプスは悲鳴を上げる。
「グオオオオッ!」
「そこ」
 マリカの短い言葉と同時に剣が一閃し、サイクロプスの首が宙を舞った。
「すげえ! マリカもだけど、ルーテもよくあんな両者が激しく動いている所で目だけをねらったなぁ!」
 フォルデのその言葉に、他の兵士達も絶賛の声を上げる。
「ありがとうございます、ユアン」
「ううん。お姉ちゃん凄いね!お師匠様みたいだ!」
 ルーテが魔導書をユアンに返している所に、マリカが来た。
「助かった」
「いえ。私、優秀ですから」
「よろしく」
「こちらこそ」
 そういって、両名は握手を交わした。最強剣士の名を欲しいままにするマリカと、最強魔導師の名を欲しいままにするルーテの縁はここから始まった。
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2007.07.17 02:16 | 二次小説 | トラックバック(-) | コメント(-) |
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